藻岩山に咲くラン

藻岩山きのこ観察会
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活動報告の詳細
藻岩山に咲くラン
2014.08.11
 ラン科は、単子葉植物に分類され、世界に700属以上15000種、日本に75属230種があるという。その多くが美しく独特の形の花を咲かせる。藻岩山の登山道脇の草むらにも初夏から初秋にかけて10種を下らない自生ランが6枚の花びら(外花被3、内花被3)をつけた小花の穂を立て登山者を迎えてくれる。真ん中に立つ棒状は、ずい柱と呼ばれ雄しべと雌しべが合体したもので、その先端に花粉の塊をつけている。最下位の幅の広い花弁はランの花特有の唇弁である。
 他の内花被片2枚は同形で側花弁と言う。外花被片も唇弁の反対側のものと残り2枚がやや違った形をしている。前者を背がく片、後者を側がく片という。本来、花茎から花が横向きに出れば、唇弁が上になるのだが、ランの多くは花茎から出る子房がねじれて、本来あるべき向きから180°変わった向き、つまり逆さまになる。そのため、唇弁が下側になって、雄しべ雌しべを受ける形になる。

モイワラン(藻岩蘭)
 サイハイラン属 腐生植物 中型多年草 
夏の始め登山道脇の倒木の陰に数本の花穂を立てているモイワランの花姿が登山者の目を惹きつけている。このランは腐植層がよく発達した原生林の日陰を好んで根を下ろし、葉を着けず、同化作用を営まずに、腐植層の菌根菌から養分をもらって、恰もきのこのような生活を送る変わり者(腐生植物)と見られている。ちなみにモイワ(藻岩)の名が着きランの一種としてその存在が認められたのは僅か15年前の1999年であった。新参者ではあるが自然豊かな藻岩の森を象徴する貴重なランの一種である。
サイハイラン(采配蘭)
 サイハイラン属 中型多年草
 同じ登山道の木蔭に一見してモイワランかと疑われる花穂が散見される。同じ仲間(属)とされているサイハイランである。細長い花冠はモイワランにそっくりだが、花が一方に偏ってつき、その昔武将が戦場で指揮とるときに振るった采配に見たてられて名づけられたという。その姿からなるほどと命名者のセンスに感心させられる和名である。両者の見分けのポイントは、真っすぐに立っている花茎の根元にある。葉の無いモイワランに対してサイハイランは笹の葉に似た2枚の大形の葉を着けている。
オオヤマサギソウ(大山鷺草)
ツレサギソウ属 中型多年草
ランは日陰を好むものが多い。同じランの仲間のオオヤマサギソウは、尾根筋のような乾燥環境の林地に根をおろしている。山頂から中腹に通じる自然学習歩道散策の折に思い掛けずオオヤマサギソウに出会った。歩道脇の疎開した岩礫地に多数の白い小花を着けた花穂を立てていた。それぞれの小花が側花弁を左右に広げ、白鷺(サギ)の群れが羽根を広げ羽ばたく美しい姿が連想される。
オニノヤガラ(鬼の矢柄)
オニノヤガラ属 腐生植物 中型多年草 
 やや疎開した林床に自生する。葉なしで、葉緑素を持たないで、土壌中の腐植層の菌から養分を得て生きている。地下の塊茎は長さ10cm前後の楕円形で、表面には多くの節がある。茎は直立し、帯黄褐色で、高さは40-100cmになり、円柱状の茎に膜質の鱗片葉をまばらにつける。
花期は6-7月で、黄褐色の花を茎の先端に20-50個総状につけ、下方から開花していく。花は3がく片(外花被片)が合着して壷状になり、中に2個の側花弁と卵状長楕円形の唇弁がある。その花姿は和名にそぐわない風情がある。
エゾスズラン(蝦夷鈴蘭)
カキラン属 小型多年草
自然学習歩道脇のシラカンバ林の林床に淡緑色の小花の花序を立てていた。うっかり見逃すほど目立たないランであ。 和名はその花姿がユリ科のスズランに似てことに由来し、アオスズランの別名がある。花は地味だがその可憐な姿が持ち味のランである。
 茎は直立し、高さは30-60cmになり、全体に褐色の短い縮毛が生える。葉は5-7個が互生し、楕円状卵形になり、先端は鋭くとがり、基部は茎を抱く。葉に縦ひだがあり、細毛があるためザラつき感がある。
  
アオチドリ(青千鳥)
アオチドリ属 中型多年草
 ランでは異色の緑色の唇弁花をつける。花のつくりをルーペで覗くとやや複雑であるが、側がく片、背がく片、唇弁、その真ん中のずい柱が揃っていてまぎれもなくランの仲間だと納得させられる。
唇弁は3裂し、側がく片は平らに開き、背がく片と側花弁がずい柱をかぶと状に包みこんでいる。その花を葉のような長い苞が伸びている。茎にはつやのある大型の葉を互生し先端部の花穂を支えている。和名アオチドリは花の淡緑色に因んで命名され、また、北海道の根室地方に多く自生してるのでネムロチドリとの別名もつけられている。
 

コケイラン(小蓴蘭)
 コケイラン属 中型多年草
 初夏に茎の上部に黄褐色の小さな唇弁形の花をまばらにつけて立っている。登山道脇の草むらに点在し、個体数が少ない上に花期も短く、めったにお目にかかれない野生ラン。幸運にも視線の先に咲いている2株をなんとかカメラに収めることができた。10数個の黄褐色の花を総状につけ、そのスリム花姿から容易にコケイランと見分けられる。
 苞は長さ4-6mmの狭披針形で、先は鋭尖頭になる。がく片と側花弁は長さ8-10mmの披針形で、先端はやや鈍頭。唇弁は倒卵形になり、がく片と同長で基部近くで3深裂し、白色で紅紫色の斑点がある。
 
ササバギンラン(笹葉銀蘭)
 キンラン属 中型多年草
笹の葉に似た葉をつけた茎は直立し、高さは30-50cmになる。葉は6-8個が茎に互生し、形は卵状披針形で、長さ7-15cm、幅1.5-3cmで先端は尖り、基部は茎を抱く。葉の裏面、縁および花序に白色の短毛状突起がある。
 茎頂に白色の花を穂状花序に数個つけている。花の下にある葉状の苞が目立ち、下部の1-2個の苞は花序より長い。がく片は長さ11-12mm、側花弁はがく片より短く、唇弁の基部は距となって突出する。
同族のギンランにその花姿がよく似ていて、見分けるのに一苦労するラン。
ノビネチドリ(延根千鳥)
テガタチドリ属 中形多年草
登山道(慈恵会コース)脇の草むらには、数種の野生ランがそれぞれ個性的な花の穂を立て初夏の原生林に色彩を添いている。中でも地中に根を張り円錐形の花穂を立て、千鳥に見立てられたノビネチドリの花姿が際立ち行き交う登山者目を惹きつけている。ルーペで覗くと一つひとつ花は、ラン特有な唇に例えられる複雑な形が観てとれる。ランに限らず野生の花は、ルーペ越しもさることながら、少し間を置いてその姿を眺めるのも森での楽しい一時でもある。
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